6月12〜13日には香川(中・四国アメリカ文学会第39回大会)に遠征し、耳学問。
初日におこなわれた柴田元幸さんの特別講演(「21世紀アメリカ小説―現実の組み立て方について―」)についてメモ。
まず現代のアメリカ小説について、1980年代にポストモダニズムが後退し、レイモンド・カーヴァーといったリアリズムの小説が台頭するといった変化が生じ、90年代には幻想やSFやファンタジーの要素を取り込んだ小説、いうならば、村上春樹的小説が増えたと概観したところで、21世紀のアメリカ小説の新側面をしめす作品としてLinh Dinhの"The Cave"を紹介。
Linh Dinhはサイゴン生まれ(1963)で75年に渡米した作家で、"The Cave"はマイノリティ文学の新側面を示している。80年代には“我々”(被害者的存在)と“彼ら”(加害者的存在)という二つの枠組みが見られたが、現在はそのような分かりやすい図式は消失している。"The Cave"も、そのような図式のあいまいさ(彼我の融解?)が見られる。
現代アメリカ小説でポイントとなるのは、「私」というもののとらえ方。ヘミングウェイでは分かりやすかった(=自分にとって透明だった)ものが、カーヴァーになると分かりやすさが消え(=自分にとって透明ではなくなる;語ろうとするが語りえない)、現代の小説では「私」が現実と虚構がごたまぜになった存在としてとらえられている。現代のアメリカ小説では、合うはずのないジグソーパズルを作ってでもいるかのようにして自己が組み立てられており、そのようにして組み立てられる自己は出来合いの物語からのズレとしてしか成立しないようなものなのである。出来合いの物語からのズレとしてのみ成立する自己というのは、子どもを主人公とした作品(たとえば、ケリー・リンクのもの)で顕著である。
質疑応答で興味深かったのは、現代アメリカ小説とポップカルチャーの結びつきと、『アメリカン・サイコ』についてのコメント。前者はについては、現代の(若手)アメリカ作家はものごころついた時からメディアの流す情報にひたっていて無意識がポップカルチャーでできているとのこと。後者については、自己の組み立てという点で『シスター・キャリー』の論理的延長にある作品だと言えるとのこと(『アメリカン・サイコ』も『シスター・キャリー』の商品で組み立てられていく自己が描かれている)。
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先生のお話を聞きながら(耳学問をした際の常ではありますが)、「もっといろいろと小説を読みたいなぁ」としみじみしつつ、「いろいろあるけれどへたっている場合じゃないよなぁ…“老いてますます盛ん”を地でいくんだったし」なんてことも思ったのでありました。