へっぽこ講師のあれやこれや(別館)

頻繁にやる気が行方不明になる大学教員の雑記です。アカデミックな要素はかけらもありません。

反逆する時代の知性

先のエントリーでふれたように、2月8日(金)に国際文化会館で開催されたパネルディスカッション「アントニオ・ネグリ 反逆する時代の知性」に行ってきました。かいつまんで論点を報告するなんてことは、へっぽこな私の手には余る芸当です。とは言え、絶望的なまでにおぼろげな理解の補強や修正をする機会が得られるのではないかという気もいたしますので、なぐり書きのメモをどうにか解読したものをアップしておこうと思います。 *姜尚中「『<帝国>』とアメリカニズム」 『<帝国>』…アメリカ論として秀逸。   イラク戦争の失敗や金融不安によりアメリカの覇権が後退を見せる   という形で、現実がネグリの示したシナリオにますます接近をしている。   このような状況下で今のアメリカをどう見るか    (→アメリカはユニラテラルでなくなるのか?    世界は<帝国>に近づいていくのか?)を問うていくべき。 *宇野邦一「生の政治のゆくえ」 「生の政治」   …フーコーの「生権力」に基づくもの    市民の生命を手厚く保護するとともに"生きなくてよいもの”     (分割)を生む    現在では、経済と絡みあいながら分割がおこっており、     「生経済学」や「自己管理」の論理も生まれている ネグリの「非物質的労働」 (情報・コミュニケーションにかかわる労働、芸術)  =世界のあり方を根本的に変え、マルチチュードを生むもの。   新しい「生の政治」に導くもの。    *竹村和子マルチチュード/暴力/ジェンダー」 モダン[フーコーが論じるもの]からポスト・モダン[ネグリ]への変化  …金融資本とテクノロジーの進展を通して、生権力が身体の一括管理に    向かう(投機的食糧管理、臓器移植、生殖医療といった形で)   ネグリの議論では、管理からはみ出される生の偏在が抵抗の政治を生む 近代には他者を攻撃することで自己を防御するディフェンス・メカニズムが  あったがポスト・モダンにおいてはディフェンスを失い自己が崩壊。  ハイパー・バイオパワーとでも言うべき状況が生まれている。  →ハイパー・バイオパワーはマルチチュードの担い手として   どう接続されるか?(ネグリに問うてみたい点) *木幡和枝「マルチチュードと芸術」 ネグリには、優れた即興表現者に通じるものがある          →きわめて微細で深いレベルの記憶を基盤に行われるもの ネグリの芸術観  ・「芸術そのものが社会の前衛」というソンタグの議論との近親性  ・精神と身体の逆転…土方巽やアントナン・アルトーとの近親性 <帝国>は空海の言う「重々帝網」(?)、  マルチチュードは"でんぐり”(→「愚直な身体」)のイメージ。  *討論 ○ネグリ的生について  ・非物質労働が人間として物質化された時に大きな変容が起こっている。   この変容はマルチチュードの契機ともなるが   ネガティブな要素も生む。(竹村)  ・唯物論者ゆえの楽観主義に基づくもの(木幡) ○ネグリの哲学(生政治)と政治とのつながりに関して(姜)  日本の知識人はアメリカをどう見るか、   アメリカが衰退するとしたらいかなる形かを考えるために、   『<帝国>』の再読は必要  『<帝国>』にはディシプリンをなぎ倒す何か   (ある種のトータリティ)がある ○ドゥルーズの「バートルビー」論との親和性について(宇野)  「ヨーロッパとアメリカでは革命が異なっている」と語り、   アメリカを「脱領土化」したものするドゥルーズを   根本的に継承できたのがネグリである。
<帝国><帝国>
(2003/01/23)
アントニオ・ネグリマイケル・ハート

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マルチチュード 上 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス)マルチチュード 上 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス)
(2005/10/30)
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芸術とマルチチュード芸術とマルチチュード
(2007/05)
トニ・ネグリ

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今回のパネル・ディスカッションは、ネグリの初来日の記念企画でありました。ネグリが来日するのは来月のこと。講演日程は下記の通り。 3月22日(土)18:00~21:00@国際文化会館(要事前申し込み)  「<知識人>はいまなお可能か?」 3月25日(火)18:00~20:30@京都大学百周年記念会館百周年記念ホール  「知識労働とプレカリアート」 3月29日(土)13:00~16:30@東京大学安田講堂  「新たなるコモンウェルスを求めて」 3月29日(土)・30日(日)@東京芸術大学上野校美術学部校内)  「ネグリさんとデングリ対話―マルチチュード饗宴―」