へっぽこ講師のあれやこれや(別館)

頻繁にやる気が行方不明になる大学教員の雑記です。アカデミックな要素はかけらもありません。

ただただ励まされる

久々に姫野さんの本を一気読み。大正九年生まれの女性ハルカの一代記。「なぜか励まされる」存在だったという姫野さんの伯母がモデルになっているだけあって、ハルカさんの生き様にはただただ励まされます。励まされるといっても、戦争の影がさしていて明るいだけではないし、姫野節*もしっかりと織り込まれておりますが。 ハルカの人生に転機が訪れたのは、女学校時代でありましょう。幼少の頃こそ「異例の若さで校長になった」と言われる父の存在がついてまわり、彼女はそれを重石として窮屈に感じていました。しかし女学校にきて、自分は特別ではないとはたと悟ります。「人は、その人の丈に合うた人生を、他の人と比べんと進んでいくと、かかずらわってもせんかたない感情に悩まされんですむんやないやろか」と思えたこと、そのことがきっかけになって、彼女の人生はうまく回りだしているのです。 本書に励まされる一因としては、ハルカさんの“もて”方があります。彼女は、(性的な充足という点はさておき)“職業人“や“おんな“という部分を当たり前のように認めてくれるパートナーを得たという意味では"もて"ているし、職業婦人になって以降は全方位的にも“モテ“ていて、それを謳歌し続けているのです。しかも、『整形美女』で甲斐子が“もて”の要素として挙げた「不潔さ」を駆使した様子もないというところも興味深い。「人生には三回"もて”期がある」なんて言葉をかけられると、「ケッ、しらじらしい」とか「精力がなくなってからモテたってよぉ」と毒づいていたものですが、ハルカさんの姿をみていると(フィクションではありますが)、“もて”期があるという話も信じられるし、遅ればせながら“もてる”というのもまんざらではないように思えてくるのです。 というわけで、本書は非モテ女に希望をもたらす一冊とも言えるでしょう。もちろん、それ以外の方も十分に楽しめますが。 *個人的に膝を打ちまくったのは、戦前の雰囲気をブランドとしてのエルメスになぞらえたくだりと女の友情のくだり。それから緑川由里子に語らせた"外だけリベラル"な父親批判も。
ハルカ・エイティハルカ・エイティ
(2005/10/14)
姫野 カオルコ

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